同一労働同一賃金「2004年」特集からのメッセージ

基礎知識

16年前に組まれた「同一労働・同一賃金」特集

「同一労働・同一賃金」時代の幕開け―これは、さかのぼること16年前の2004年、筆者が当時、編集記者として在籍していたチェーンストア経営専門誌『月刊 販売革新』における特集のタイトルです。

16年前に「同一労働同一賃金」?と不思議に思われる方もいるかもしれません。日本でパートタイム労働法が改正され「差別的取り扱いの禁止」「均衡待遇の推進」などの規定が盛り込まれたのは2007年、働き方改革法やそれに伴って「同一労働同一賃金ガイドライン」が規定されたのは、2018年のことだからです。

ILOが同一報酬条約を規定したのは1951年のこと

しかし、広義の「同一労働同一賃金」は以前からある概念で、ILO(国際労働機関)が「同一価値労働同一報酬の原則」を盛り込んだ第100号「同一報酬条約」を規定したのは1951年のことです。ただし、日本も批准しているこの「同一報酬条約」は、主に男女間の賃金格差是正を想定したものでした。
 本特集はILOが想定する男女間の格差ではなく、近年まさに働き方改革法によって是正しようとしている「正社員とパートタイマーの格差」を問題としています。
 こうした意味で、とても先進的だったと言えますが、残念ながら、このタイトルのように企業主体での「同一労働同一賃金時代」は(一部先進企業などを除き、少なくとも日本全体では)明けなかったと言えるでしょう。
 それから16年、国主導で(働き改革法によって)「同一労働同一賃金」時代の幕を開けようとしているのが、現状なのです。

賃金という「メッセージ」を明確に伝えることが大事

 さて、問題提起、対策、事例などで構成された本特集は、当時、チェーンストア経営で主流となりつつあった「販管費率抑制策としてのパート比率の引き上げ目標」に警鐘を鳴らしつつ、あるべき「人材マネジメント」を実施するための対策を提示したものです。
 コンサルタントの小杉一夫氏による対策提言「新しい時代に求められる『報酬哲学と責任分担』の再設計~『役割と賃金』のアンバランスを解消せよ!」では今でも、参考になる内容が多く記されていますので、紹介していきましょう。
 まず、賃金は「経営からのメッセージ」だと説明。

フルタイム社員の月給であれ、パートタイマーの時給であれ、賃金は仕事を行った人への金銭的報酬である。経営が報酬哲学として、各人に期待すること、大事にすること、奨励することなどのメッセージを具現化したものが賃金になる

そして、賃金を性格によって、3つに分類しています。

仲間として、長く勤め企業価値を理解・共有化することを重視したメッセージがある年功給。技能・スキルを上げ、効率的・効果的な仕事を担うことを重視したメッセージがある能力給。これらは個人の属性を重視したものだが、対局にある仕事の属性である仕事の責任を重視したメッセージがある役割給(仕事給・職務給)がある。

 本記事では賃金の具体的な決め方として「それぞれの責任の重さに応じて役割給部分を増減させて時給を決めていく」とし、責任の重さは3つの責任項目<知識・ノウハウ・経験の難しさ>と<取り組む課題の工夫>と<仕事をする上での自由裁量全般>を数値化して合計するとしています。こうした決め方はもちろん一例で、もっとも大事なのは次の部分です。

パートタイマーに対して賃金に込められたメッセージを明確に伝えることが必要である。

 パートタイム・有期労働法で、事業主の説明責任が新たに規定されましたが、「聞かれたら答えなければいけないもの」というだけでなく、「賃金」という従業員に対するメッセージをどのような内容にするか考えることが大切なのです。

「働き方改革法以前」の先進企業の取り組み

続けて、本特集の事例の1つ、イオンの施策を見ておきましょう。当時の施策がにように紹介されており、まるで「同一労働同一賃金ガイドライン」の事例のようです。

正社員とパート社員の資格統一で「同一労働同一賃金」を原則に、正社員とパート社員の賃金格差も縮小させた。同じ資格で業務成果も同等なら、転勤の有無など雇用条件による格差は残るものの、正社員に準ずる賃金が支払われる。

 さらに【基本的に年齢給を廃止】とありますから、ガイドライン以上に厳格な(「職務給」重視型の)同一労働同一賃金制度と言えるでしょう。そして、本特集からいったん外れて、先進企業事例を集めた「多様な人材活用で輝く企業応援サイト」などを見ると、先進的な企業事例を多く目にすることができます。

いまこそ必要な「人材マネジメント」の視点

こうした先進企業の(法対応のために実施したのではない)「同一労働同一賃金」の取り組みを改めて見ると、「法律順守」とともにわが社の「人材マネジメント戦略」をどうするべきか、という視点の必要性が見えてきます。

 経済評論家 故・磯見精祐氏による「問題提起:パート比率85%時代に向けた組織構造改革の問題点~年金改革と余剰正社員の対策は5年後を想定して立てよ!」の記事では、以下のように記しています。

世の中、何が起こるかわからないというリスクに対する最善の方法は、利益を蓄積しておくことです。そのための経営資源で小売り業、サービス業にとって最重要なのは人材です。
改めて組織構造を考えるときに、人材マネジメントは、人を生かすことを考えてこそ正当性があると、30年前にドラッカー教授が指摘していたことを思い出してほしいものです。

16年前に書かれたこの言葉は、いまもって色褪せず、むしろ(「何が起こるかわからない」コロナ禍に対峙しなければいけない)いまこそ胸に刻むべきものだと筆者は考えています。

そこで、本サイトでは、「法令順守」という観点はもちろんのこと「人材マネジメント」の観点からも「同一労働同一賃金」をどう実現していくべきかを研究していきます。

本稿では、法律等の名称は通称を用いています。
「働き方改革法」:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律。なお、本法における「同一労働同一賃金」とは、パートタイム・有期労働法と派遣法における、雇用形態による不合理な差別を禁止する部分です。
「パートタイム労働法」:短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律
「パートタイム・有期労働法」:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
「同一労働同一賃金ガイドライン」:これは案の時点の名前で、指針化された際「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」と改称されましたが、案時点の名称が通称となっています。
男女雇用機会均等法:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律